3月9日 記者会見のご報告

2016年3月9日、衆議院議員会館にて、現在立法に向けた議論が進んでいる「義務教育の段階における普通教育の確保に関する法律案」について、フリースクール全国ネットワーク、多様な学び保障法を実現する会での合同記者会見をおこないました。

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急遽決まり、お知らせをした会見にも関わらず、8社より9名の記者が来場。
議員連盟に立法を持ちかけた団体として。また、学校に行かない(行けない)ことで苦しむ子どもたち、あるいは教育の機会を奪われている子どもたちのため、ぜひとも法案を成立させてほしいとアピールをいたしました。

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急なお知らせにもかかわらず駆けつけ、取材をしていただいたみなさま。
また、会見の開催にご協力をいただいたみなさまに、改めて感謝申し上げます。

2016年3月9日
NPO法人フリースクール全国ネットワーク・多様な学び保障法を実現する会

【会見者】
奥地圭子(NPO法人フリースクール全国ネットワーク代表理事/多様な学び保障法を実現する会共同代表/NPO法人東京シューレ理事長)
汐見稔幸(多様な学び保障法を実現する会共同代表/白梅学園大学学長)
喜多明人(多様な学び保障法を実現する会共同代表/早稲田大学教授)
江川和弥(NPO法人フリースクール全国ネットワーク代表理事/NPO法人寺子屋方丈舎理事長)
前北 海(NPO法人フリースクール全国ネットワーク理事/NPO法人ネモ ちば不登校・ひきこもりネットワーク理事長)

配布資料

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■奥地圭子
今日は、フリースクール全国ネットワークと多様な学び保障法を実現する会の共催で呼びかけをいたしました。
新しい法律づくりは、今週金曜日に議員連盟の合同総会が行われ、各党審議にはいることになりました。
各党でどのように審議されるかは非常に重要で、その時に情報が不足すると審議も深まらないということもあります。私たちは、法案を持ちこんだ団体として、この間法案がいろいろ変わってきていることをどのように考えているかをお話しして、結論から言えば、今の修正案で、最初の一歩として成立させたいと思っている、そういうことを報道いただければありがたいなと思って開かせていただきました。
この法律のとらえ方ですが。私たちは、最初、学校に行っていない子どもたちが、学校以外の場所、フリースクールや家庭も含むいろいろなところで実際にやっていっている、それを応援する具体的な仕組みがほしいと思い「多様な学び保障法案」を考え、議員連盟に持ち込みました。議員連盟では、その案は理想的だがハードルが高すぎるということで、「これだったらどうだろう」と馳議員が座長の時にとりまとめられた「従来案」で議論がされてきました。しかし、議員さんの中にもいろいろな意見がありますから、議論の経過でそれが変わってきて、今の修正案ができてきています。
私たちは、学校以外で学ぶことを認めること、選べることを、両方求めてきました。しかし、今の修正案は、学校外で学ぶことを選べる仕組みではなく、従来通り、親の就学義務は学校でということにはなっているのですが、学校外を認めることにはなっている。そこで、この法案が現状を変える一歩になりうると判断し、子どもたちのために法律を通したいというのが基本的な立場です。
資料は立法チームに出したもので、【1】のところに学校以外の学びも認められていることも書きました。また、市民の声も、子どもの立場、卒業生の立場、親の立場で求めている声を紹介してあります。
資料の8ページ目には、学校以外も認められるということだけでなく、「安心できる」「意思を尊重」「必要な休養」「個々の状況に応じた」「民間との連携」等、私たちも大事だと思う言葉がいろいろ入っていることを書きました。
2009年から取り組み、最近の法案になってからもたくさんの集会を開いて、皆さんの声も聞きながらやってきた立場として、「夜間中学だけ通して、フリースクールの方はいろいろ意見が多いからやめておけば」いう意見もありますが、こういう苦しい現状を変えるためにこそ、これが必要だということを判断しているとお伝えいたします。

■喜多明人
早稲田大学の喜多です、いろいろな研究をしていますが、今回のことに関わっていうと、教育法学が専門ということになります。
今回の法案、8月に案が出てきてからいろいろな審議を経て、現在の案にいたっていますが、大きな変更は「長いスパンで、多様な学び、教育機会の確保の仕組みを時間をかけてつくっていこう」ということになったという事です。最初は具体的な制度設計を法律に書いていこうということでしたが、日本では全く未経験の制度ですので、法律に書いていくのは無理がある、それでもそれをつくっていくという点を評価しています。
私はもともと「理念法で良い」と思っていました、第一条には、新しい、多様な学びを今後制度化していくための基本的な理念を設定すること、責任主体をはっきりさせること、それから制度設計については民間団体あるいは地方自治体と協議して良いものをつくっていこうということが書かれています。
また、基本指針には、国、地方自治体は民間団体の意見を「反映させる」という非常に大胆な言い方もしています。他の法律では意見を「尊重する」という表現が多いですが、これは「意見は尊重しました、でも決めるのは私です」といえる表現ですが、「反映する」という以上は、私たち民間団体や地方自治体の意見を実際に反映させていく必要がある。今後、制度設計を丁寧につくっていき、よりよくしていこうという仕組みです。そういう意味で、私はこの法案の意義を支持したいと思います。
それから、教育法的にいうと、憲法26条で子どもたちには「普通教育を受ける権利がある」ということになっています、保護者に「受けさせる義務がある」という書き方ですが、それを担保する仕組みが学校教育法しかなかったということが日本の教育法制の欠陥だったとわたしは思っています、不備といった方が良いかもしれません。
つまり、欧米では、普通教育を学校以外にも担保する仕組み、家庭も含めて様々な学校教育以外の学びも担保する仕組みがある。本来は日本にもそういう法制度があって良かったのですが、学校教育だけを担保して70年が経ってしまった。この70年間の重み、「教育は学校でやるもの」というしみついた意識、これがこの一年間は私が感じてきたことです。
学校以外の学びを子どもたちが求めた時、「学校でなきゃいかん」という日本の社会の意識の強さを感じ、そういう意識だからこそ制度の壁を破らなければ変わらないと感じています。
私は、教育法学と同時に学校教育学もやってきた人間ですが、そういう人間が多様な学びを提案している。それは、学校を変える、あるいは教育改革を進めていく上でも多様な学びを進めていくことが大事だと思っているからです。
学校を改善すれば不登校はなくなるし、多様な学びは不要になるという教育学者は、私の友人も含めたくさんいます。しかしそれは空論の部分もあり、現に子どもたちが学校外の学び、多様な学びを求めている、そこの部分を今回法制化していくということで、理念として「多様な学び」が追加されたことに評価しています。

■汐見稔幸
汐見です。私も教育学に関わってきましたが…。今回のことをひとことで言うと「なかなか簡単には進まない」ということを改めて感じました。
不登校12万人、実際にはそれどころではない数の子どもたちが「学校に行けない」ということで学びの機会を奪われている、そういう現実をなんとかしたい、フリースクール等が頑張ってはいるけど、そこに行ける子どもたちは数も限られている。
たくさんの子どもたちが学ぶチャンスをほとんど得られないまま育っていかざるをえないという社会はおかしいのでは、そういうところからスタートしてきました。
ところが、不登校をしている子どもや親には、「学校、教育委員会と聞いただけで虫唾が走る」という人もいる、「不登校というのはあくまでも例外であって、本来は学校に行くべき」という非常に強い信念をもった政治家もいる。本当に幅広く、いろんなところで不登校についての議論がされてきて、その人たちが全員納得するような法律をつくるのは今の段階では難しいということを実感しました。
だけども、難しいからもう仕方がないとあきらめてしまえば、教育の機会を奪われた子どもたちが放置されたままになってしまう訳ですね。そういうとことで、どういう法律があれば一歩前に進めるのかということを議論してきました。
「子ども、親が学校を選べる社会」というのが僕たちの目指している社会、色んな学校があるということが、社会が豊かであることだと思っています。だけど、そういう法律案をつくってしまうと通らない。だけども、実際にいまの学校が合わないという子がたくさんいるということを認めて、その子たちの学びのチャンスをなんとかしてつくらなければいけない、ということに関しては、認識はだいたい一致してきました。
この法律は、そこに基づいてつくられてきた法律であるということ、理念法である、権利条約、多様な学びという言葉が入っていて、あまり細かい事が書いていないのが良いと考えています。
理念法というのは、その理念に基づいてやっていって、うまくいかなければ、うまくいくように変えていける。法律をつくってもうまくいかないという人もいるが、使い方次第なんだという事です。
もともとは、「多様な学びが認められる社会に」と言ってきた私たちからすると、満足いくものではありませんが、少なくとも不登校の子どもにとって、学びの場を豊かにしていけるものである、そういう判断で、ぜひ通していただきたいと思っています。

■江川和弥
福島県会津若松市でフリースクールを運営しています、私自身高校中退の経験があり、息子も不登校をしております。
今まで学校に行かない子、不登校の子どもは法律上位置づいていなかった、不登校の子どもがいるという前提にはなっていなかった日本の教育法の中で、今回それが存在を認知され、学校以外の学びの場、我々フリースクールも含めた学校外の学びの場が認められることには大きな意味があると考えています。
田舎の方では、学校に行かない子どもという存在は社会的に認められていない、そういう状態がずっと続いているということに忸怩たる思いでいます。それが法的に認められるという状況になってきたのは貴重な第一歩、また、それによって無用な干渉、無用な登校刺激というのも避けられる。将来に向けて、学びの選択肢、可能性も残されるというのも大事だと考えております。
そういうことで、現場の声としては、ぜひ今回の法案を通すことによって、さらに議論を深めていきたいと、そのように考えています。

■前北海
私自身、不登校をしていました。フリースクールには通いませんでしたが、今はフリースクールの運営者として子どもたちと関わり、フリースクールに来ている子どもの声も聞き、三つの立場とも言えます。
私自身は、この法案には当初懸念を持っていました。しかし、いろいろな場で議論を重ね、情報も得ていく中で、行政に振り回されるのではなく、私たち市民がしっかりとこの法律を使っていくことで、今の状況を変えていくこともできると考えるようになりました。
また、この法律には、平成25年に成立したいじめ防止対策推進法を補完する意味もあるとも考えてもいます。「いじめにあったら逃げても良い」。もちろんいじめはあってはならないこと、本人の尊厳を傷つける行為ですが。一方で「逃げても良い」という言葉は一体何なのかと、元当事者として感じてきました。また、9月1日に子どもの自殺が多いということも内閣府の調査で解りました。それを防ぐためにも、「逃げて良い」だけでなく、その方法、場所も提示することが必要と考えています。
それからもうひとつ、不登校のつらさというのは、もちろん学校でつらい事があった、学校との軋轢があるということもありますが、親との関係もあります。多くの親にとって「学校に行くのは当たり前」です。また、法律上も就学義務は学校で果たすようにもなっている、それを、「学校以外の場所でやることもありえる」と示せる事にも、意味があると思っています。

記者質問
皆さんは当初「フリースクールを認め、応援してほしい」ということでスタートしていたと思います。しかし、それがなくなり、今の法案は不登校対策になっているじゃないかという意見もあるんですが、そこについてはどう思っていますか。
また、まずは法案を通しそこから良くしていこうともおっしゃっていますが、それも困難な道だという見方もあると思います、そこについて何か具体策はあるのでしょうか。

奥地
今の法案も、フリースクールへの応援の意味がなくなったとは理解していません。民間団体、つまりフリースクール等も指針作りに参加して、求めていける、そういう意味では応援という意味も入っていると思います。
また、当初求めていたものからは後退していても、それを変えていけるとも思っています、附則には3年以内の見直しもあり、多様なものを求める方向で今後も議論をするという方向性を入れてほしいという要望も出し、それが活かされたのかどうかは解りませんが、入っています。議員連盟も解散せず継続的に議論を続けて行きましょう、ということになっていて、今後も続けて行けると考えています。

汐見
国の認識としても、多様な方向に動きつつある。教育再生実行会議等の議論からもわかるように、学ぶ方法が一種類しかない制度は今の時代、社会に合っていないと為政者も認識しているわけですよね。だからこそ下村前文科大臣もフリースペースの視察に行き、ここに人と金をきちんとつければ、次の時代の教育になりうると言った、個人に動いているわけではなく、背景にそういう流れがあるという事です。
ただ、議員さんの中には古い学校に対してこだわりを持つ人も多いし、簡単に、新しい、多様な学校をつくらなきゃいけないというところで一致できる状況ではないことは今回わかりました。ただ、流れとしては、多様化の方に少しずつ進まざるをえない。そういう点では、一歩を出ることを可能にした法律になるのではないか、今後の私たちの努力次第ですが、そういうふうに認識しています。

喜多
附則の2に直ちに経済のありかたを検討するという文言も入っており、基本指針には民間団体の意思を反映させるとも書いてあります。そこで、民間団体が意見を言いながら、具体的な制度設計、あるいは経済支援を充実させていく可能性が開かれていると思います。
また、「義務教育の充実」という意味のある法案になったことは夜間中学と一緒になったメリットでもあり、「義務教育は無料」という原則を広げていける可能性もあると考えています。

記者質問
なかなか多様な教育が認められない現状があって、その壁を破ることで進めるという言葉がありましたが、この法案が学校制度の壁を破れたことになっているのでしょうか。
馳議員が座長の頃の案でも、就学義務壁は破らずの「特例」として、今回の法案はそこには全く触れない、制度の壁を破れないからこうなっているという見方もあると思うんですが、喜多先生はいかがでしょうか。
また、奥地さんは、多様な学びが法案で認められた、とおっしゃいましたが、現状でも出席認定などで認められている現状もあり、それがこの法案でさらに進むということでしょうか。それについてお考えを聞かせていただきたいと思います。

喜多
9月15日の案では、特例として学校以外の学びを就学義務の履行とみなすという条文があり、そこが制度の壁の突破のきっかけになるんじゃないかと見方もありましたが。私が話したことはそこではなく、学校以外の学びも正統な「普通教育を受ける権利の保障」として今後発展させていくという理念が今回入っている。その理念の中でなら、今後の制度的な改革の可能性もあると考えています。それから制度の壁というと、学校制度そのものの大きな議論が増えているが、実践に対する制度の壁というか、学校に行かないというだけでプレッシャーを感じてしまう、親も子どもも委縮して自己否定感に襲われてしまうような、そういう現状を変えていく制度の壁とか、学校復帰しかないんだと思い込んでいる学校や教育委員会の意識を変えていくということも、これは実践だけではどうしようもない制度の壁なんですね。制度上の壁を破っていくということは、いろんなレベルで考えていく必要があると考えています。

奥地
前進するんだろうかというお話しですが。制度的には「選べる」状態にはならなかったんですが、実際上、学校外の学びの重要性とか、実際に不登校の人たちがやっている学校外の学習活動を認めているし、休息の必要性や、子どもひとりひとりの状況に応じるとか、民間団体の意見を反映するとか、重要なところが、さまざまな場所で「法律上の言葉になった」ということが前進する手掛かりになると考えます。
こういうのも、使いようだと思います、「学校なんて…、教育委員会なんでどうせダメよ」というのではなく、これを手掛かりにして訴えていく、変えていくということが重要だと思っています。

記者質問
不登校の子どもたちを支援するにあたって、状況を把握するというのが法律の中に含まれていると思いますが、これまでは「ほっとかれた」というか、「ほっといてもらえた」という状況もある、それに対して「把握される」と逆に子どもを追い詰めるという声もあるようにおもいますが、そこについてはどのようにお考えですか。

奥地
そういう声もありますが、今の現実も、例えば東京シューレでは学校の出席認定などで報告も出していて、継続的にやっている。実際にそうやっている所は多くあって、連携を強めるためには、そうやって「支援する立場」での情報交換は必要だと思います。
一方的に管理されるのでは、という不安をどう払しょくするかが大事で、連携すること自体がいけないわけではないので、子どもの立場から使っていきたいというところです。

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